スポーツと紫外線対策 ～ 東京五輪 気になるスポーツ選手の紫外線暴露状況とその対策 ～
東京オリンピックの開催を来年に控え、競技会場や輸送交通網の整備・大会スケジュールの決定・チケット販売などの準備が着々と進められており、ここ最近では東京オリンピックの課題のひとつとなっている熱中症対策についても、ミスト装置・日よけテント・冷風機などの設置準備、更にはマラソンコースの再検討などが進められています。
これに関連してつい先日話題に上ったことがあります。選手の紫外線対策です。
オーストラリア・南クイーンズランド大学などの研究チームが、東京オリンピックで各競技の金メダリストが最も多く紫外線を浴びる屋外競技の推計をまとめ発表しました。これは日程・会場・プレー時の姿勢・ウエアなどを考慮して算出されており、それによると最大はテニス女子シングルスで、紫外線を浴びる時間はなんと合計10時間半にも及ぶとのことです。
「紫外線を多く浴びると皮膚がんのリスクが上がる」との指摘がされており、この調査の結果をもとに生涯にわたり紫外線のリスクにさらされるスポーツ選手の、練習時の肌を覆うウエアの着用や、汗に強い日焼け止めの使用による、紫外線対策の重要性が説かれました。
この紫外線をはじめとする太陽光線を無防備に浴びることにより皮膚に現れる、しみ・しわ・たるみなどの老化現象を「光老化」といい、光老化の最終の結果として皮膚ガンを生じることもあります。
「光老化啓発プロジェクト委員会」では東京オリンピックを目前に、スポーツ選手の紫外線対策と「光老化」の実情を知るべく、本プロジェクトの委員で皮膚科医の川島眞先生（東京女子医科大学 名誉教授）と元オリンピック選手による対談を行いました。
競泳でオリンピックに2大会出場しラグビーＷ杯のドリームサポーターも務める伊藤華英さんは、日焼け止めを塗らないと泳いだ後の疲労が大きい事実にいち早く気が付き、子どもの頃から日焼け止めを塗り日焼け対策を行っていたそうです。また合宿で訪れる海外のプールでは、日焼け止めを塗らないと入れないところもあり、日本国内より日焼けに対する意識が高かったとのことです。その結果として現役時代から「光老化」の予防を行っていたことになります。
オリンピックの女子マラソンにて2大会連続でメダルを獲得した有森裕子さんは、レース中にサングラスをかけ、目からの疲れを軽減する対策を行っていたとのことです。マラソンでも同様に日焼け止めの使用が重視されており、海外でのレースでは参加証に日焼け止めが入っていたり、受付で日焼け止めを配られたりすることもあり、紫外線対策の意識が高かったそうです。また引退してからはイベントなどの屋外での仕事もあるので日焼け予防効果のあるクリームを使用しており、紫外線対策を通して「光老化」の予防を行っていらっしゃいました。
このように屋外で競技を行うスポーツ選手の中でも、紫外線対策やその先にある「光老化」予防の重要性が認識されてきています。
「光老化」の予防となる紫外線対策は、選手のみならず長時間スポーツを観戦する私たちにも重要です。
例えば東京オリンピックでテニスとサッカーのチケットが当選したとなると、思いの外長い時間屋外で紫外線を浴び続けることになります。よって屋外観戦では下記に挙げるようなグッズなどを用いた紫外線対策が必要です。
◆ 日焼け止め（サンスクリーン剤）
UVBとUVA両方に有用なものを選びましょう。屋外での軽いスポーツにはSPF30以上PA＋＋＋、炎天下や海や山でのスポーツにはSPF50以上PA＋＋＋＋が目安となります。少し厚めに塗り、汗で流れたりした場合は忘れずに塗りなおすことも必要です。
◆ サングラス
目からも紫外線は吸収されます。日光を遮断するだけでなく紫外線までカットするUVカット機能がついたものを選びましょう。このUVカット機能は、紫外線透過率で表示され、例えば１％未満のものは紫外線カット率が99％以上となります。
また上部や横からの紫外線を考慮して、レンズの大きいものや目をぴったりと覆うような形を選ぶことも有用です。
◆ 帽子
UVカット帽子の加工には、繊維に紫外線を反射する微粒子を織り込んでいるものと、生地に紫外線を吸収する薬剤を染み込ませているものがあります。洗濯してもUVカット効果が持続する前者がおすすめです。
また形は、頭周辺を一周覆うつばのついたもの、そのつばが大きいものを選ぶと良いでしょう。
56年ぶりのオリンピック自国開催が決まり、直接競技を観戦する機会に恵まれたことをきっかけに、私たち自身のスポーツ観戦時の紫外線対策を通じた「光老化」の予防についても、考えてみてはいかがでしょうか。
日刊スポーツ光老化啓発特集掲載記事はこちら
第1回 伊藤華英さん（元競泳選手）
URL https://www.nikkansports.com/sports/special01/hikari/2019/hikari-itoh-01.html
第2回 有森裕子さん（元マラソン選手）
URL https://www.nikkansports.com/sports/special01/hikari/2019/hikari-arimori-01.html
参考
2020年東京オリンピックでの紫外線暴露と皮膚ガンのリスクについての論文
Biologically effective solar ultraviolet exposures and the potential skin cancer risk for individual gold medalists of the 2020 Tokyo Summer Olympic Games
https://www.tandfonline.com/doi/full/10.1080/23328940.2019.1581427
2020年7月24日から8月9日に開催される東京オリンピックにて屋外で実施される144種目について、この競技で金メダルを獲得する個人選手が紫外線に暴露する時間を算出し、紫外線を浴びると高まる皮膚ガンのリスク回避を呼び掛けている。
（監修）
川島 眞先生
東京女子医科大学 名誉教授
NPO皮膚の健康研究機構 副理事長
一般社団法人日本コスメティック協会 理事長