コラム

「飲む日焼け止め」について

2022.06.07

春から夏にかけて「飲む日焼け止め」の広告がネットや雑誌に多くみられるようになります。今回は改めて「飲む日焼け止め」についてお話したいと思います。

「飲む日焼け止め」は紫外線をブロックしない 

いわゆる「飲む日焼け止め(sunscreen pills)」は,抗酸化物質または抗酸化酵素の発現の誘導を通して抗酸化能を高めることにより,紫外線による皮膚のダメージを抑制することを目的とするものですが,紫外線自体をブロックする作用はありません.「飲む日焼け止め」の配合成分の多くは抗酸化能による活性酸素の抑制を標榜しています.中には最小紅斑量(minimal erythema dose;MED)増加作用などが報告されている成分もあります。(文献) ヒトにおけるMED増加作用については,論文中には有意な上昇がみられたと結論していますが,これをSPF値の計算式に当てはめると1~2程度のSPF値増加にすぎません.

 

FDAでは飲む日焼け止めに対して警告

「飲む日焼け止め」に対しては,米国皮膚科学会(AAD)から一貫して「サンスクリーン剤等の日焼け止め対策の代替品として使うべきではない」と否定的な見解が発信されています.さらに,2018年には米国食品医薬品局(Foodand Drug Administration;FDA)から消費者に対して「サンスクリーン剤の代わりになるような錠剤やカプセルは存在しない」と「飲む日焼け止め」のみで紫外線対策を行うことへの危険性についてあらためて注意喚起が行われています.そして数社の「飲む日焼け止め」製品に対して虚偽広告であると警告を行い,「日焼けを防ぎ,光老化を予防し,皮膚がんのリスクから守ることができるという誤った安心感を消費者に与え,人々の健康を危険にさらしている」と具体的に指摘しています.

 

「飲む日焼け止め」の表現の規制は必要、しかし抗酸化作用は日焼け後のダメージケアには有効

しかし,FDA「飲む日焼け止め」自体の作用を否定しているのではなく,サンスクリーン剤の代用として「飲む日焼け止め」を単独で使用する危険性に対する警鐘です.日本においても,面倒なサンスクリーン剤から解放! 飲むだけで全身日焼け止め! などのPRメッセージがインターネットを中心に氾濫しています.このような誤った情報の流布は止めるべきですが,抗酸化作用は日焼けによるダメージの軽減や回復にも有用であり,適切なサンスクリーン剤の使用に加え,抗酸化作用を有するサプリメントの摂取は意義のあることとも考えられます.「飲む日焼け止め」の販売にあたっては,適切なサンスクリーン剤を使用したうえで,「飲む日焼け止め」を摂取するように注意を徹底するとともに,「飲む日焼け止め」といった表現に対する規制も必要と考えます.

 1) Richard R, Del Rosso J, Rigel DS. Polypodium leucotomos extract: a status report on clinical efficacy and safety. J Drugs Dermatol. 2015:14;254-61.
 2) Pérez-Sánchez A, Barrajón-Catalán E, Caturla N, et al. Protective effects of citrus and rosemary extracts on UV-induced damage in skin cell model and human volunteers. J Photochem Photobiol B. 2014:136;12-8.

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